花の身上書
シクラメン

 サクラソウ科の多年草であるシクラメンの故郷は気候の温暖な地中海沿岸地方。イタリア、ギリシャ、トルコ、イスラエルなどヨーロッパ、小アジア、北アフリカの国々の山岳地帯の森の中や湖のほとり、海岸に近い岬の岩場など、荒れ地や砂地の乾燥したところで、塊茎からのびた茎の先に可憐な小さな花を咲かせる。
 シクラメンの原種は世界中で20種ほど。いずれも小型で淡い色合い。
 古代ギリシャ時代から親しまれていたシクラメンが西ヨーロッパに渡ったのは18世紀。ギリシャからキプロス島、レバノンに至る東地中海沿岸原産のペルシクム(persicum)という品種が1731年にイギリスに導入され、栽培が始まった。当初は花の大きさ、色とも野生種と変わらなかったが、やがて濃桃、紫紅、深紅などの色が現れた。
 大輪の華やかなシクラメンは1870年頃にイギリス、ドイツで育成された。本来のシクラメンは小さな野草。交配は難しく、育成の過程で突然変異的に出た大きい花を選び出し、育てていったもので、現在の園芸品種はすべてこのペルシクムから誕生した。
 シクラメン(cyclamen)という名前は“丸い”という意味のkyklosというギリシャ語から。塊茎の形に由来するとも、受精すると花柄が螺旋状に巻くからともいうが、それ以前はなんと“サウ・ブレッド”(豚のパン)と呼ばれていた。豚が野生の球根を食べていたらしい。なんとも微笑ましい呼び名だ。
 日本では明治25年、新宿御苑で初めて開花したとされる。男爵夫人で歌人の九条武子が、温室に咲く真っ赤なシクラメンを見て「まるで篝火のよう」とつぶやいたことから、牧野富太郎博士が『カガリビバナ』と命名したが定着せず、学名のシクラメンが一般の呼称となっている。



シクラメン/絵 蟹江慶子
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