花の身上書
ユ リ

 初夏の山野に、周囲の雑草を従者のようにしたがえ、 王者のごとく咲き誇る山百合。真白い花とふくよかな香りがノーブルな貴婦人を彷彿とさせる鉄砲百合。愛らしい小さなオレンジの花を並べる蝦夷透かし百合は北海道の海岸に、大きくそりかえった花弁の内側に斑点模様を付けた鹿の子百合は四国や九州の断崖に揺れる。
 百合は日本中に15種類が自生し、そのうち7種はわが国だけの特産。万葉のいにしえから詩歌に詠まれ、愛されてきた。
 北半球の温帯から亜熱帯にかけて約100種類が自生するユリは、花の形から、ヤマユリ系、テッポウユリ系、スカシユリ系、カノコユリ系の4種類に分けられる。
 ヨーロッパにもユリの仲間は古くから自生し、神話、伝説にも数多く現れ、聖書にも信仰の花として登場するが、いずれも日本の原種に比べ小型で、純潔の象徴として聖母マリアの持つ純白のマドンナ・リリーも、さほど大きな花ではない。花の都といわれ、その名も花を意味するイタリアの古都フィレンツェを始め、ヨーロッパ各地にはマドンナ・リリーが咲き乱れていたという。
 ユリの品種改良が行われ始めたのは19世紀になってから。ドイツ人医学者シーボルトが、日本原産の大型で芳香性の強い山百合、鉄砲百合、鹿の子百合などの球根を持ち帰って咲かせ、ヨーロッパで絶賛され、改良が進んだ。日本の山野に自生していた気高いユリたちが、西欧の地で華麗に変身をはじめ、現在では日本、欧米、ニュージーランド、オーストラリアなどで育成される園芸品種は2000種を超え、カサブンランカ、ル・レーブなどの人気品種を誕生させたのである。


カサブランカ/絵 蟹江慶子
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