花の身上書

マ ツ

 正月を祝う「門松」、目出度いことの代名詞である「松竹梅」の筆頭でもある。長い樹齢を保ち、寒い冬も緑を絶やすことのないマツは、我が国では高貴、長寿の象徴となっている。日本各地の景勝地はもとより、神社、仏閣などには必ずといっていいほどマツがあり、襖絵、掛軸、能舞台など芸術、芸能にも数多く取り上げられ、日本人の心に定着している。
 こうしたことから、マツは日本に太古から数多く存在する植物であると思われがちであるが、マツの種類は90種ほどもあり、北半球の寒帯から亜熱帯にかけての地域に広く分布している。
 日本に自生していたのはそのうち6種類ほどで、現在のように広い地域にマツが見られるようになたのは、花粉分析の結果、わずか1500年ほど前の事と判った。古代国家の成立とともに開発が進んで、木材の需要が増え、自生する天然材が伐採されてマツが広まった。マツもまた建築材、燃料、薬用など人の暮らしの中で有用な木材として活用されてきたのである。
 マツが単なる樹木としてではなく、心の風景となっていったのは中国文化の影響でもある。中国では、樹形、枝ぶり、樹皮の亀甲型、そしてなによりも極寒の中でも緑を絶やさず、齢を保つその姿に、マツを「百木の長」として尊び、絵画に現し、詩歌に詠んだ。
 日本でもすでに万葉集に90首のマツの歌が詠まれているが、そのほとんどが長寿願望、マツと「待つ」を掛けて、契りを交した人を待つ・・・といった情愛を詠んだものである。
 『八千種の花は移ろう常磐なる 松のさ枝をわれは結ばん』(大伴家持)

★アカマツ
 クロマツとともに、松葉が2本の二葉松類の代表的なもの。樹皮が赤褐色で、亀甲に亀裂する。平安、鎌倉期、文化の中心である都周辺に多く存在したであろう事が、絵巻物の背景に描かれていることからも判る。内陸部に多く、高木の中でも最も個体数が多い木。

★クロマツ
 「白砂青松」と表現され、日本各地の海岸に多く見られる。アカマツ同様、二葉松類。下部の樹皮は暗黒色で厚く亀甲状鱗片に剥離する。断崖に耐えて命を保つ様は人の心をとらえ、絵画、盆栽などに表現される。



若松/絵 蟹江慶子

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