ー 斉藤クンのアウトドアライフ ー 
雪解けの奥利根湖

●一睡もせずに漕ぎ出す


 いつもならカヌーを漕ぎ出す前に2、3時間は仮眠するのだが、今年はダムサイトに着いてみて驚いた。駐車場から周辺の道路まで釣り師の車やボートでいっぱいである。しかも山間の残雪が想像以上に多い。ダムサイトから眺める巻機山は中腹まで雪で真っ白だ。のんびり仮眠なんかしている場合ではない。湖の奥はもっと 雪が多いだろうから、急いで出発しないと乾いた砂地のキャンプ地が確保できなくなる。ボートで釣り場へ急ぐ釣り師を横目に、我々は一睡もせずに出航の準備に取りかかった。夜明け前のまだ薄暗いうちから。
 湖面には流氷のように雪の固まりが浮かび、薄氷まで張っている。水に手を漬けるとすぐに痛くなるほど水温は低い。岸辺のわずかに砂が露出した場所でカヌ一を組立てたのだが、アルミのフレームに触わった指先が張りついてしまうくらい外気は冷えこんでいる。テント、食料などキャンプの荷を積み終え、出航の準備が整ったのは7時前のこと。カヌー遊びに来たのは幸いにして我々が一番乗りのようだ。カナディアン1艇、カヤック2艇のカヌー船団は、眠い目を擦りながらキャンプ地の奈良沢をめざして漕ぎ出したのである。


(砕氷船?)

●春はまだ来たばかり

 去年もその前もこの時期は、ブナやミズナラの新緑が萌え、タムシバ、シャクナゲ、カタクリの開花が一斉に訪れる眩いばかりの春だった のに、今春は、ヤマザクラが僅かに白い花を見せているくらいで、タムシバの蕾はようやく膨らみかけたところである。カタクリの群生していた斜面は、まだ厚い雪に覆われたままである。今年の奥利根湖は、例年よりひと月遅い雪解けの春を迎えたばかりなのであった。昨夏の干ばつの痕は微塵もない。もう2、3mでダム湖は満水状態になるほどだ。


(カヌーの上で朝飯を食い、ビールを飲む)

 湖の奥へ漕ぎ進むほどに雪肌を多く残した上越の山並みが近づいてくる。山の上には雲一つない空が広がっている。穏やかな湖面には白い山と青い空が映っている。我々は、カヌーの上で朝飯のムスビや弁当を食い、湖水で冷やしたビールを飲む。喉が乾いたら手で水を掬って飲めばよいのだ。岸辺に寄ると沢山の小魚が群れている。網があれば幾らでも取れそうだ。「どうせハヤの稚魚かなんかだろう」と気にもしなかったのだが。釣り竿を立てルアー仕掛けのトローリングをしているモータ一ボ一トに何度も出会ったが、釣り上げた場面は1回も目にしな かった。ダムサイトから5kmほど奥にある奈良沢へ到着したのは9時すぎのこと。やっぱり寝ないで夜明け前から活動すると一日がとても長いのだ。

●奈良沢は雪の原


(雪上のキャンプ風景)

 途中の状況からみて奈良沢に雪が多いことは十分想像していたのだが、これ程の雪がまだ残っていようとは誰が予想できただろうか。沢が湖に流れこむ遥か手前から雪原となっていて、そこが陸地なのか湖の上なのか見掛けだけでは見当もつかない。陸上はどこも雪に覆われ、土が露出しているのは岸沿いのわずかな空間だけしかない。乾いた砂地の一角を整地してキャンプ地とした。昼寝する前に、命の次に大切な食料と飲物は、雪面に穴を掘って作った天然の冷蔵庫に埋めておいた。


(雪の残る森を歩く)

 昼寝から目覚めてもまだ12時前である。河原にテーブルとイスを出して昼飯にする。予定では山菜うどんの筈だったのだが…。この雪ではまず山菜は期待できそうもないので“かき玉うどん”にでもしようと卵を探したらケースごとそっくり無いのに気がついた。車の中に忘れてきたのである。「えっ一、卵を忘れてきた。卵が無くってどうやってチャーハンつくんだよ。卵のないチャーハンなんて、クリープを入れないコーヒーどころの問題じゃないよ…」。今回のキャンプ飯のために大きな中華鍋を持参した N が憤慨した。「カヤックの2人艇で行けば往復2時間で帰ってこられるからさ一」。卵を取って来させようと必死なN だが、「どうしても卵チャーハンを食べたいって訳でもないしね。サケ缶もカニ缶もあるから…」と、誰も彼の挑発や誘いに乗らないのである。
 卵騒動にも飽きたので食後の散歩に出かけた。いつもだと笹や灌木の藪に覆われて容易には近づけない場所も、雪のあるお陰で自由に歩ける。しかも雪が締まっているから思いのほか歩きやすい。川に沿ってブナやミズナラの森を歩いた。恐る恐る小さなスノーブリッジを渡ったりもした。雪のない岸辺でコゴミ、フキノトウ、トリアシショウマなどを少しだけ採ることができた。

●雪上キャンプ

 散歩から帰ると仲間がまた騒いでいる。何者かに食料の一部を食い荒らされたというのである。犯行の状況から見て犯人はカラスと判明。憎らしいことに鶏の手羽元を7割がた食われてしまった。残りはわずか3本、5人いるのに2本足りないではないか。合議の上ジャンケンの勝者3人が食ベてよいことにした(もちろん私は勝って食べる権利を得た)。
 もう一つ深刻な問題が生じた。到着時と比べて湖の水位がだいぶ上昇しているようだというのである。昼前には歩いて渡れた島状の浅瀬には、3時すぎにはもう歩いて行けなくなってしまった。1時間に1〜2cm、水嵩が増えているのは確かだ。夜中にテントが浸水しても困るから、水面から2mは高い雪の上にキャンプ地を移動することにした。テントの下には河原の枯れ草を刈り取って敷きつめ、夜の冷え込みに備える。
 日没前の4時頃から焚き火を起こし、タ飯の支度を始めた。ポトフをたらふく食べた後、Nがチャーハンを作るからご飯を炊こうと言い出した。ご飯を炊きカニとサケのチャーハンを食べてタ飯はすべて終わったが、外はまだ明るいのである。焚き火を囲んで酒を飲むうちに辺りがすっかり暗くなると、猛烈に冷え込んできた。明朝5じに起きることを約束して各自のテントに戻ったのは午後8時すぎのことである。


(卵ぬきのチャーハンをつくるN)


(焚き火を囲んで飲む)

●朝の訪問者

 6時すぎに目が覚めた。谷間なので日が上るのは7時頃である。朝の冷え込みはさほどではなかった。テントの外張に霜が降りた程度である。我々のキャンプ地に2人の渓流釣り師がやって来た。奥利根湖を活動の場とする釣魚団体「八木沢会」の古くからの会員だという。「昔はどの沢へ入っても尺岩魚が釣れたもんだよ。 最近は釣り客が増えたせいか、渇水が続いた影響か大物はあまり釣れなくなったね」「今年は雪が多かったから例年より1か月遅いよ。咋日なんか水温が7度までしか上がらなかったもの。今朝はまだ2度だよ。これじゃ釣りにならないね。でも1年のこの時期だけ、ワカサギが岸辺に上がってくるんだ。目の細かい網があれば幾らでも捕れるよ。ここのワカサギは水が良いから味は最高さ」「ここは夏が一番いいね。カヌーでやって来た若い女たちが、この辺を水着で歩いているよ。マムシ?そりゃいるけど長靴履けば怖くないさ。それよりクマのほうが怖いね。秋は禁漁期だからキノコ採りに来るんだ…」。釣り師二人の話は尽きないのであった。
 そうか夏も良いのか(なにが良いのかよく分からないけど)。豊富な雪解け水で渇水の心配もないというから、今年はぜひ夏の奥利根湖に来てみたいと思ったのである。

 “なんとも隊”=千葉市役所のカヌー同好会。 正式名称は「いやはやなんと もあぶない探検隊」という。


(森でみつけたカモシカ?のふん)


(雪の上でくつろぐ なんとも隊)

斉 藤   久 芳

 千葉市公園緑地部で花島総合公園の建設に携わる。 庭やベランダで花を飾ったり育てたりすることが若い女性の間でも流行しているとか。流行に遅れまいと、若くない私も今春から花づくり園芸に精出しています。玄関や軒下、庭先に色とりどりの花があふれる我が家は近所でも評判になっています。ゆとりと潤いのある暮らしには、エンゲル係数よりエンゲイ(園芸)係数ですね。
(我が家の玄関先)


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